飯田市は焼肉がなぜ多いのか？歴史と文化から理由を解説

長野県南部の飯田市は、焼肉店がとりわけ多いことで知られています。人口約9万人ほどに対し100軒以上もの焼肉関連店があり、老若男女問わず昼夜を問わず気軽に焼肉を楽しむ文化が根付いています。どうしてこれほどまでに飯田市に焼肉店が集中したのか？歴史的背景や地域の風土、最新事情まで多角的に検証し、その理由をわかりやすく解説します。

飯田市は焼肉店がなぜ多いのか？

飯田市は全国的にも「焼肉の街」と呼ばれるほど焼肉店の密集度が高いことで知られています。実際、市内を歩けば数百メートルごとに焼肉店の看板を目にすることができ、人口に対する店舗数は全国トップクラスです。これは単純な数の多さだけでなく、市の規模と比較した店舗密度の高さが際立っていることを示しています。

焼肉の街と呼ばれる由来には諸説ありますが、明確な原因は特定できていません。メディアには長野県飯田市で焼肉店の密度が日本一という話題も取り上げられており、市民の間でもその理由を探る声が絶えません。インタビューではダム建設の際に集まった外国人労働者が焼肉文化をもたらしたという説や、かつて内臓肉（ホルモン）が安価だった影響という説などさまざまな話が伝えられています。しかし、「これが決定打」という明確な正解はなく、複数の要因が重なった結果だと考えられます。

焼肉の街・飯田

飯田市は人口約9万人に対し100軒以上もの焼肉店が存在しています。JR飯田駅周辺の半径1km以内だけでも15軒以上、駅前通りを歩くだけで8軒もの焼肉店を確認できるほどです。これは全国平均と比べても突出した数字で、コンビニよりも焼肉店が多いという例え話も生まれています。

こうした状況から、飯田市は「焼肉の街」と呼ばれます。市民にとって焼肉は特別なものではなくごく身近な食事で、老若男女問わず手軽に焼肉を楽しむ日常が広く根付いています。テレビ番組や書籍でも何度も取り上げられており、焼肉店の多さは地域のアイデンティティの一つにもなっていると言えます。

焼肉店密集の実情

人口1万人あたりの焼肉店数で見ると、飯田市は全国で最上位になります。たとえば、同じく焼肉店が多いと言われる北海道人気の北見市や三重県松阪市と比べても、人口規模を考慮した密度は飯田市が突出しています。飯田市の人口は約9万人ですが、焼肉店は100店以上あり、人口1万人あたりでは約11店もの焼肉店がある計算になります。

以下の表は主要都市の人口と焼肉店数の比較例です（数値は概算）。

このように比較すると、飯田市の焼肉店数は人口規模から見ても極めて多いことがわかります。人口規模が近い都市と比べても焼肉店数が突出しており、飯田市の「焼肉街」としての特色を物語っています。

南信州の畜産業と地産地消が支える焼肉文化

飯田市が位置する南信州地域は、独特の温暖な気候と自然環境に恵まれています。山間部でありながら盆地にあたるため比較的温和で、四季を通じて畜産に適した地域とされています。この気候風土のおかげで、古くから肉牛や豚の飼育が盛んに行われてきました。

さらに、地域で育てられた良質な牛肉・豚肉を地元で消費する「地産地消」の思想も深く根付いています。南信州一帯には養豚・肉用牛の農場が点在し、阿智村や喬木村といった周辺自治体と連携して安定した食肉供給網が築かれてきました。このような畜産基盤と流通体制があることで、新鮮で手頃な価格の肉が市内に供給され、焼肉店の増加を支える追い風となっています。

温暖な南信州の気候が畜産を支える

南信州特有の温暖な気候は、他地域にはない肉用畜産の環境を提供しています。寒冷な北信や中信地域と比べ冬でも比較的過ごしやすく、山の尾根を利用した牧草地など畜産に適した地形が広がっています。こうした自然環境の恩恵により、戦前から牛・豚の飼育が行われてきた歴史があります。

飯田市近郊では家族経営の牧場も多く、地元で生まれた牛や豚がそのまま地域内で消費される慣習があります。これにより流通コストが抑えられ、住民にとって良質な肉が手軽に手に入るのです。こうした地元密着型の畜産文化が、焼肉を日常食として定着させる土壌となっています。

歴史的に根付く畜産文化

飯田市では戦前から肉牛・豚の飼育が行われており、戦後の食糧事情改善にも一翼を担ってきました。南信州では農閑期の収入補填として牛の飼育を行うことが珍しくなく、戦後復興期には地域産の需要に応じて出荷されてきました。

現在でも高森町や阿南町、小地区など南信州エリアの農場と連携し、日常的に安定した品質の肉が地元に供給されています。このように長年にわたる地元畜産の伝統が、飯田市の焼肉文化を根底から支える大きな要因となっています。

戦後から根付いた飯田市の焼肉文化

戦後の高度経済成長期以降、飯田市では焼肉文化が急速に広まりました。当時は各地に精肉店（肉屋）が点在しており、これら精肉店が中心となって焼肉が手軽に楽しめる環境を整えていったことが背景にあります。例えば1980年代には、焼肉専門の定食屋やランチ営業をする店が次々と誕生し、平日の昼から気軽に焼肉を食べるスタイルが定着していきました。

また、市民の間で「焼肉は外で食べるもの」という意識が早くから根付いた点も特徴です。全国的には家庭用ホットプレートで焼肉をする家庭が増える中、飯田市では店で食べる焼肉が当たり前となりました。戦後復興期には市内で新鮮な牛肉や豚肉が大量に供給されるようになり、焼肉が特別なごちそうではなく日常の食事の選択肢になっていったのです。

家庭で広まった焼肉習慣

飯田市では、子どもの頃から家族や友人と焼肉を囲む習慣が一般的です。各家庭には焼肉用の鉄板やガスコンロが備えられており、週末に友達を呼んで焼肉パーティーをすることも珍しくありません。地域の広い庭では近所の人にも気兼ねなくバーベキューを楽しめるため、家族単位で焼肉を楽しむことが普通の光景として定着しています。

こうした家庭中心の焼肉文化は、許認可の焼肉店だけでなく、自宅や公園で焼肉を楽しむ選択肢を市民に与え、焼肉そのものをより身近な存在にしました。家の中で特別な調理器具を用意し、自分たちで焼肉を楽しむことが、ごちそうではなく「日常の一部」とされているのです。

精肉店と外食産業の広がり

一方、飯田市内の精肉店の多さも焼肉文化を支えています。精肉店は地域住民に新鮮な肉を提供すると同時に、焼肉店への卸売りを手がけるなど焼肉文化の裾野を広げました。精肉店が卸すことで、飲食店のみならず家庭でも気軽に焼肉向きの肉が手に入るようになり、「外でも家でも焼肉」が実現しました。

さらに1980年代以降、市内には焼肉専門店が急増しました。特に昼食時間から焼肉営業を行う店が増えたことで、昼食の選択肢に焼肉が加わり、サラリーマンや主婦、高校生までが日常的に焼肉を食べるようになりました。定食形式のメニューを用意して一人客も気軽に入りやすい店が多い点も、焼肉文化を広げる要因となっています。

住民の日常に根付く焼肉とタレ文化

飯田市の焼肉文化には、もう一つの大きな特徴として「焼肉のタレ文化」があります。多くの家庭では焼肉のタレを家族ごとに独自のレシピで自作しており、「一家に一台、秘伝のタレ」という言葉も聞かれるほどです。醤油や味噌にみりん、ニンニク、地元産のりんごやはちみつを加えるなど、各家庭で味付けにこだわりがあり、タレ作りが家庭行事のように引き継がれています。

また、飯田市民は牛肉だけでなくジンギスカンでも使われる羊肉（ラム・マトン）や牛豚の内臓（ホルモン）を好んで食べる点も特徴です。戦後の飢えを乗り越えた世代の影響もあって、大人になっても牛肉より羊肉やモツに馴染みがある人も多く、肉の種類が豊富なことも飽きずに焼肉を楽しみ続ける理由となっています。

家庭に伝わる秘伝の焼肉のタレ

飯田市では、各家庭で「自家製タレ」のレシピが代々受け継がれています。地域では鶏ガラでダシを取った醤油ベース、味噌やリンゴ果汁入り、さらには煮詰めたブルーベリーを少量混ぜるなど、家庭ごとに味に特徴があります。こうしたオリジナルタレの存在が、焼肉料理に個性を生み出し、家庭内での焼肉をより楽しませています。

また市内には、自作のタレをアレンジして提供する焼肉店も現れています。たとえばフレンチ出身の店主が手掛ける焼肉店では、ワインを使ったマリネやジビエ料理盛り合わせなど、食材に合わせてタレや調理法を工夫し、独自の焼肉体験を提供しています。

ラム肉・内臓料理の定番

飯田市では、ラムやマトンの味も好まれています。市内の焼肉店では部位ごとの食べ比べができる「いいだマトン三種盛り」が人気メニューの一つで、独特の風味を楽しむ文化があります。牛肉を好まない家庭でも羊肉は食卓に上がることが多く、市内の食肉文化の多様性を支えています。

また、牛豚の内臓もよく食べられます。内臓料理は家庭の常備食であるタレでじっくり煮込んだり、焼肉の場でもホルモン焼きとして親しまれます。こうした多様な肉を楽しむ習慣があるため、焼肉に飽きることなく、地域全体で焼肉への興味が広がり続けているのです。

他地域との焼肉店数比較

飯田市の焼肉店数の多さは、他地域と比べても際立っています。ある調査では人口1万人あたりの焼肉店数が飯田市は全国で第1位とされており、焼肉店の密集度はコンビニエンスストアを上回ります。仮に同規模の他都市と比較しても、飯田市で焼肉店がこれほど多い理由は明らかです。

以下は主要地域の人口あたりの焼肉店数の一例です。

• 飯田市：人口約9万人、焼肉店数100軒以上 （人口1万人あたり約11軒）
• 北見市（北海道）：人口約12万人、焼肉店80軒前後 （人口1万人あたり約6.5軒）
• 松阪市（三重県）：人口約16万人、焼肉店80軒前後 （人口1万人あたり約5軒）

これらの数値からも、飯田市の焼肉店数の多さが際立っていることがわかります。近隣の南信州都市や全国平均と比べると、同規模の街に比類のない密度で焼肉店が営業しており、「どこに住んでも焼肉店に困らない」と言われるゆえんです。

また、飯田市には一人でも気軽に入れる定食形式の焼肉店が多いため、昼間から一人焼肉をするサラリーマンや学生も多く、常に安定した需要があります。こうした需要の高さも、他の地域にない焼肉店数の多さにつながっています。

まとめ